「月がきれい」感想 …思春期の終わり
最終話まで見終わってあらためて振り返ると密度の濃い物語でした。
言葉で多くを語らなかったりするので、ちょっとした表情やしぐさ、脇役の言葉からふたりの気持ちの揺れ動きを推測する。あとLINEのやり取りで感情表現をしたり。
とにかく情報量が多くて、見返すたびに発見があるので、しばらく思いついたことを書き散らかしてみます。
この物語の骨子は思春期の小太郎と茜が、知り合ってからの一年での成長過程を描いたと思います。ふたりは中学三年生の春からみるとずいぶん変わりました。
変わる小太郎
小説を書いている。友人や身近な人は知っているが、読まれるのは恥ずかしい。
でもいつか新人賞を取って自分の作品を発表したい。
思春期によくある感情でしょう…
「誰にも自分のことを言えない、それでも自分をわかって欲しい」
「水野さんはそのままでいい、と思う」
小太郎の言葉は茜の心に届き安心させました。そして小太郎は少しずつ変わります。
茜と出会って恋に落ちたこと、茜に自分から「付きあって」と言ったこと…
自分の気持ちが相手に伝わる、それはある時は嬉しくて、ある時は嫉妬に苛まれ、ある時は勉強も頑張ることができる。
小説の才能に悩む小太郎でしたが、茜と付き合ううちに人を動かすのは純文学とかラノベとか関係ない。文学賞を受賞することでもない。
自分の気持ちを伝えることだと気がつきました。
小太郎と茜のことを書いた小説「13.70」
それは賞が目的ではなく、初めて人に読んで貰うために書いた小説です。
最終章に、茜にいままで一度も伝えていなかった言葉を書きました。
いま小太郎はその大切な言葉を直接伝えるために走ります。
それは祭りの夜、比良に言われてしまった言葉…
本当は自分が茜に一番最初に言いたかった…
だからLINEでも小説の言葉でもなく、小太郎は茜に直接伝えたかった。
「大好きだ」と…
叫んだ時、小太郎の気持ちは外の世界に開かれたのでしょう。
これからも「大好きだ」と伝えていきたい。茜と同じ未来を歩むために…
変わる茜
緊張しやすい、流されやすい、自己肯定感も低い。
友だちとは普通に喋れるけれど、初対面や親しくない人とはいつも手探り…
体育祭の後「水野さんは、そのままでいいと思う」と言ってくれた小太郎。
そのひと言が茜の気持ちを楽にしました。
小太郎の好きなところを聞かれると「目立たないけど一緒にいると安心する」と答えます。
そして小太郎と深く繫がるほど茜の感情の起伏が大きくなります。
遊園地、風鈴、お祭り… 沢山の喜び。
誤解、すれ違い、遠距離… 沢山の不安。
いつも小太郎ばかりに無理をさせている…
自分がどうしていいかわからない…
小太郎のために何もできない自分への哀しみ…
涙と、茜からのキスの多さは不安定な気持ちの現れでしょう。
でも「どうしたらいいかわからない」哀しみは、茜が自身を変えたいという気持ちの裏返しです。小太郎のために…
「13.70」を読み終わり、小太郎となら一緒に未来を歩んでいける思いました。
どうしていいかわからず泣いていた茜が小太郎となら「ずっと一緒に歩いて行けると」信じられました…
それは小太郎の「大好きだ」が届いたから…
ふたりの願い
氷川神社に書いたふたりの願い事。「ずっと一緒にいられますように」
光明受験を決めた夜の小太郎の言葉。「ずっと一緒にいたいし」
そしてこれからは「ずっと一緒にいるために」少しずつ変わってゆくのでしょう。
自分の好きなことを頑張り、相手のことを思いやりながら。
平成29年(2017年)の小太郎と茜
光明高校受験対策問題集から、ふたりは28年入学なので現在高校二年生…
EDのLINEで「ラブラブ喧嘩」が冬服です。
時系列からして、もしかしたら丁度いま、こんな感じでしょうか(笑)
ラブラブ喧嘩
どんな喧嘩かと思ったら… ただの惚気でした(笑)
ふたつの「べにっぽ」と「つづく」
新OP場面も最終話が終わって見ると溜息をついてしまいます。
ふたつの「べにっぽ」は最終話のラストを。
小説「13.70」の下に写る「つづく」の文字はEDのLINEネタを。
小太郎と茜の「それから」の物語をこれだけで暗示するなんて…