カピバラの備忘録

アニメと音楽と読書など。少し自分の考えをまとめて見たい気分になりました

「月がきれい」 14.5話 創作

茜ちゃんが川越から引っ越してもうすぐ4ヶ月。
LINEもあるし、時々電話もしている。


最近の心配事は彼女のまわりにいるだろう男子のこと。

同じクラスの男子と仲良かったりするんだろうか…
部活の男子とはどうなんだろうか…

一度、学校の様子を尋ねて、身近な男子のことをそれとなく聞いたことがある。
「大丈夫だから」茜ちゃんは笑顔でそう言った。

「わかってはいるんだけど、やっぱりなぁ」つい口に出してしまう

去年はお金もなかったし、付き合っていることを秘密にしていた時は二人っきりになることも大変だった。そんな不自由ばかりだったけど、いま思うと毎日会える日常が凄く贅沢なことだったと感じる。
高校生になってアルバイトもしているし多少の遠出も許される。だからこそ会いたい時に会えないのが余計辛い。


「茜ちゃんもあの時こんな気持ちだったのかな…」
急に引越の前日のことを思い出す。

 

ある土曜日のLINE。

        「部活終わった?」
「終わったよ、もう疲れた〜」
        「大丈夫(笑)」
「うん平気! 小太郎くんは?」
        「いまバイトの休憩中」
「そっか。頑張ってね」
        「でも明日逢えるから気合い入ってるよ!」
「私も!それに初めて行くモールだからすごく楽しみ」
        「俺も! じゃそろそろ戻らなきゃ」
「無理しないでね」
        「了解!」

なかなか逢えない時はたわいない、ちょっとしたやり取りでも嬉しい。

翌日の日曜、今回は茜ちゃんの意見も尊重して川越と市川の中間位の場所にあるショッピングモールで遊ぶことにした。
ここならお互い1時間位で着くし、その分長く一緒にいられる。お店を色々まわりながら、逢えなかった二週間の出来事を話す。

洋服を見たり、浴衣を売っているお店で小物を見たり、スポーツ店ではシューズを物色しながら自分に特徴や機能を説明してくれる。
そして次に本屋さんに立ち寄って、いま人気の作家を茜ちゃんに教えたりする。

「小太郎くん。会って話をするって、凄くいいね」
「やっぱり直接話をするのって、LINEとか電話とは全然違うから」
「こうして手も、繋げるし…」
「だね」(笑)
「抱きついたりもできるし…」(笑)
   急にからだを寄せてくる茜ちゃん
「うぁっ、ビックリした」(笑)

知ってる人がいないので、彼女も凄くリラックスしているのがわかる。ずっと手を繋ぎないでいても人目が気にならない。

いつの間にか1時を過ぎていたのでフードコートでお昼ご飯。
どうしてもモヤモヤする気持ちを抑えきれずに、クラスとか部活の男子のことを思い切って聞いてみる。

「うん…、でも私、小太郎くんが大好きだから。心配ばかりさせて、ゴメンね」
「いや、俺の勝手なヤキモチだから。こっちこそゴメン」

ふたりしてちょっと照れ笑い

そのあと飲み物を買って、外の景色が見えるベンチに座る。
彼女が「私のどこが好きになったの…」と聞いてきた。

体育祭の時、全力で走っている姿に見とれたこと。そしてリレーを見ずに用具室でマスコットを探していたことを話した。

去年のことを思い出す。彼女の大切なものだと知って、午後の応援そっちのけで探したんだった…
探したと言うのが何だか恥ずかしくて「用具室で拾った」と言ったんだっけ…

その時の茜ちゃんは嬉しかったのか、何だか凄く早口で、恥ずかしいけど走るのが好きなこと、失敗ばかりで駄目なことを喋ってくれた。

あんなにカッコ良く走れてキレイなのに…
本当はもっと良いことを言って励まそうと思ったんだけど、結局上手く言葉にできなかった…

あの時の気持ち、ちゃんと彼女に伝わってたかな…

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「ありがとう、小太郎くん。そんな時から私のこと助けてくれてたんだね」

泣きそうになる茜ちゃんをなだめながら、今度は逆に自分のどこが好きになったのか聞いてみた。

「忘れちゃった」と言うなり、ほっぺたにキスしてきた彼女。
ビックリして振り向くと悪戯っぽく微笑んでいる。

もたれかかる彼女を感じながら、人を好きになる理由なんて本当は何でも良いんだと思う。

  初めて同じクラスになったこと
  彼女からLINEを教えてくれたこと
  神社に訪ねてきてくれたこと
  告白して、返事をもらえたこと
  泣かせてしまったこともあった
  そして彼女の乗る電車を追いかけ叫んだこと

いま考えると全てが偶然の積み重ね。

「小太郎くん、大好き」
「俺も、大好き」
「でもたぶん私の方が好きだから」(笑)
「俺はもっと好き」(笑)

少しでも行き違いがあったら…
そして先に告白していなかったら…
いまこうしていることも無かったかも知れない。

  好きな人が自分を好きになってくれる…。

本当に奇跡だと思う、いまはこの奇跡を信じよう。

「また小説を投稿するから…、読んでもらえるかな」
「ホントに、すごい。もちろん読むね」

「茜ちゃんも陸上頑張って、応援しているから」
「また試合の時、神頼みもしてくれる?」
「うん、いっぱい神頼みする!」

「あとで夏休みの予定も考えようか」
「いいね、どこへ遊びに行く?」

いつの間にかモヤモヤする気持ちも消えていた。
茜ちゃんのことが大好きな自分がいる。だから今は彼女のことをもっと応援しよう。
きっとその先は未来に繫がっているのだから。

…14.5話 終わり

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茜視点の14話が書き足りなかったので、今度は小太郎視点で書いて見ました。