「月がきれい」12話 それから その1 感想
出会いから一年間の物語
小太郎に届いた光明高校の不合格通知。
茜は「めちゃくちゃ頑張ってくれたし、それだけで十分。ありがとう」と小太郎を励まします。でもふたりとも元気がありません。
小太郎は古本屋のお兄さんに、この経験は無駄にならない。「書いて見たら、少しは気が楽になるかも」といまの気持ちを書くことを薦められます。
その日の夜。お姉ちゃんは遠距離になる茜に、
彩音「茜が泣くとこ見なくないなぁ」「別れたら?」
茜「姉ちゃんの意地悪っ」
茜の不安は大きくなります。
小太郎は併願で受けた市立高校の合格発表、結果は見事合格。
同じく合格した千夏との帰り道…。真剣な眼差しの千夏。ついに小太郎に告白します。
しかし小太郎の返事は「ゴメン」
心の整理が付き「言えて良かった、高校行ってもよろしく。じゃあまたね」と明るく立ち去る千夏。
偶然にもそこは茜に光明受験を伝え、ずっと一緒にいることを約束した場所でした。
そして茜に千夏からのLINE。千夏の合格と小太郎に告白してフラれたことを知る茜。その後の小太郎のLINEで卒業式の翌日、遊びに行く約束をしますが、笑顔の奥に影が見え隠れします。
卒業式の翌日、待ち合わせの場所。
やや不安げな茜ですが、小太郎が茜の手編みマフラーをしているのを見て少し笑顔に。
小太郎はバイトして毎週始発で会いに行くと言います。
「今までと変わんないよ、LINEもあるし」
茜「小太郎くんばっかりつらいのなんて…」
小太郎「平気、平気」
茜「私も貯金あるし…」
小太郎「無理しなくっていいよ」
茜「そうじゃなくて」
茜「コクられたの? 千夏に聞いたよ。何で…。言ってくれなかったの…」
小太郎「それは…。 俺、断ったよ」
茜「言わない? 普通…。心配になるもん」
千夏の告白をきっかけに高まる不安…
遠距離になってしまうこと…
同じ高校に通えないこと…
光明受験で挫折を味わせてしまったこと…
バイトして毎週始発で逢いにくると言ってくれること…
小太郎ばかりに負担をかけてしまうこと…
なによりもお姉ちゃんに言われた「別れたら?」が現実になるかも知れない不安…
目から涙が溢れます。一度は顔を上げ、こらえようとしますが…
茜「私…、ずっと…不安で…」「小太郎くんに、迷惑ばっかり…。それが、一番つらい…」「どうしたらいいの…」
小太郎は何も答えられません。遠距離になること、これからのこと、それは小太郎も持っている不安だから。
涙のキスは、押し潰されそうになる不安から逃れるため…
そのまま走り去り、泣きじゃくる茜。
…「茜の泣くとこ、見たくないなぁ」それは誰にも見せることのできない涙。
茜を追いかけることができなかった小太郎は、祭りの夜とは違う無力感に包まれます。何も言葉が見つからない…
小説をネットに投稿をはじめた小太郎ですが、本当に読んでもらいたい相手に伝えることもできない。
「もう終わりかもしれない…」それを決して口にすることはありません。
しかし、茜と小太郎の心には、そんな影が忍び寄っていたことでしょう。
引越の日、窓辺に「べにっぽ」を置いたまま見つめる茜。
このまま小太郎への想いと一緒に置いて行くつもりなのでしょうか。
お母さんの「忘れ物ない~」の声も茜には遠く聞こえます。
お別れを言いにきた千夏と葵と別れを惜しむ茜。
千夏「安曇君は」
茜は「あぁ、えっとね…」
影を落とした表情は哀しみなのか、諦めなのか
千夏「これ見て。見つけちゃったんだ、私」
千夏のスマホの画面には小説「13.70」 作者は安曇治。
それが小太郎のものだとすぐに気がつく茜。
運命の神様がいるとすれば、それはきっとイタズラ好きなヤツだと思う。
彼女は陸上部で100メートルの選手だった。
自己ベストを更新したときは、僕も自分のことのように喜んだ。
僕は文芸部の部長で、彼女の走る姿を見ながら、筆を走らせた。
作品が世に出ることはなかったけど、君はすごいと褒めてくれた。
神社で初めて会った日は、緊張してなにも喋れなかった。
茜「これ…、私と小太郎くんのこと…」
「13.70」終章を投稿した小太郎は、お囃子の稽古へ。
そして休憩時間に見た、読者のコメントのひとつに…
投稿者:茜「この先はどうなるんですか」
小説にはおそらく終業式翌日のことまでが書かれていたのでしょう。
茜が小説を読んでいた…
それは神様のイタズラなのか、それとも奇跡が起こったのか。
茜がこの先のこと、小太郎の気持ち、ふたりの未来を知りたがっている。
急いで茜の家に向かう小太郎ですが、千夏のLINEで茜はすでに改札を通ったことを知ります。LINEではなく言葉で大切なことを伝えるために電車を追いかけ走ります。
怒濤に飛び込む思いで愛の言葉を叫ぶところに、愛情の実態があるのだ
太宰治「新ハムレット」より
新しい街へ向かう電車の中で投稿されたばかりの「13.70」終章を読む茜。
どんなに遠く離れたとしても、
僕の気持ちは変わらないって伝えたい。
知らない街へ向かう君に…
そこには小太郎の茜への想いと決意が描かれていました。それを読んだ茜の目からは再び涙が溢れます。しかしそれは不安に押しつぶされての涙ではありません。
茜の乗る電車に追いついた小太郎…
そして小太郎の叫ぶ言葉と、茜が読む小説が重なる。
小太郎「大好きだぁぁー」
小太郎が線路に架かる橋の近くに来ていたことを茜は知りません。
姿も見えなかったでしょう。
今日、会うことができなかった、不安で押しつぶされそうになったふたり。
この瞬間、すれ違いそうになったふたりの心は再び重なりました。
嬉し涙を流す茜のバッグには、一度は置いてこようと考えていた、べにっぽが…
ようやく車窓の風景を見つめる茜。そこには新しい街で始まる高校生活と、小太郎とふたりで歩む未来が見えているのでしょうか…
小太郎
「はじめての恋だから…、まだ何も知らなかった」
「すごい緊張して、手の繋ぎかた、キスの仕方…」
「友だちにも秘密で、恥ずかしくて…」
茜
「いつもいつも…、どうしていいかわからなくて」
「だけどあの時、勇気を出して伝えてくれたから…」
「ずっと一緒に歩いて行けるって、信じられた…」
小太郎「好きな人が、自分を好きになってくれるなんて…」
茜「奇跡だと思った…」
茜色さす空にはきれいな月が浮かんでます。
川辺には桜が咲き始めました。
小太郎と茜、ふたりが出会ってからもうすぐ一年が経ちます。
そして物語はエンディングへ…