カピバラの備忘録

アニメと音楽と読書など。少し自分の考えをまとめて見たい気分になりました

「月がきれい」感想 …手の届きそうなフィクション

いまだに月ロスです…。いつになったら癒えるのでしょう(笑)

 

文学少年とスポーツ少女の純愛物語。普通に考えると、千夏がヒロインに合っているのではないでしょうか。たとえばこんな風に…

西尾千夏。元気いっぱい、自分の感情に正直、同じ種目の部員に負けないように自主トレも欠かさない。人を好きになれば当たって砕けることも辞さない。親友と三角関係的になっても、最後には親友のために背中を押す…。
小太郎は最初は大雑把だと思っていた千夏に引っ張られながらも、自分の踏み入れることのない世界を知る。そしてある時、元気に見える千夏だが実は内面が脆いことを小太郎は知る。それをサポートしながら一緒に未来を歩いて行く…。

こういう設定だと、外見と内面の落差が千夏という人物に深みを出します。
(決して本当の千夏に深みがないわけではありません、いまひとつ何を考えているのかわからないだけです(笑))

こちらが正統派な気がしますし、ほっといても勝手に物語りが進みそうですね。

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千夏のヒロイン像が動的とすれば、茜は静的でしょうか。

茜は大体において誰かのアクション、もしくは自分の失敗を受けるかたちで行動することが多いようです。

1話。小太郎のLINEを聞き出せず用具係の仕事をさぼらせてしまう。
  →勇気を出して自分のLINEを教える。
2話。べにっぽを探して借り物競走の準備を忘れる。
  →小太郎の機転でなんとか切り抜ける。べにっぽも見つけてもらう。
4話。修学旅行で小太郎からの中途半端な連絡もらう。
  →土井丸百貨店へ向かう。ケータイ繫がらないことなどで不機嫌。
5話。小太郎と喋れなくてフラストレーションが溜まる。
  →小太郎が古本屋で逢瀬の時間をつくる。
6話。千夏にLINEのことを言われる
  →ようやく小太郎のことを打ち明ける。
7話。故意か偶然か遊園地で比良とふたりきりになってしまう。
  →小太郎が「付き合ってんだ、俺たち」宣言する。
9話。小太郎から大会を見に行っていたことを知らされる。
  →それをきっかけに引っ越しのことを話す。
10話。茜の引っ越し、比良とのことで小太郎の不安と嫉妬に気がつかない。
  →小太郎の決意を知り、自分からキス。
12話。遠距離の不安から別れを予感。涙のキス。
  →「ずっと、大好きだ」で一緒に歩いてゆけると信じられた。

 

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自分から積極的に行動したのは下記の状況でしょうか。
3話。スマホの電池切れのため大会の結果をLINE出来ない。
  →会えるかわからないけど小太郎のいる神社に行く。
8話。お囃子の稽古を見に行きたいと言う。
  →見学しその後、氷川神社の風鈴へ。誕生日プレゼントを買う。
11話。クリスマスプレゼントのマフラーを編む。
  →その後、デート。キスのおねだり。

茜「会えたし…」(可愛い)

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茜「メリクリ」(可愛い)

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あまり自発的に動く感じではないですね。ほっといたら物語が進みそうにありません。

文字通り「いつもどうしていいか、わからない」ことが多いです(笑)
依存心も強いのかも知れません。
それに内面の弱さが外にも出やすいので千夏の様な落差を感じません。

どうも体育会系=積極的というイメージからずれている気がします。内向的スポーツ少女とでも言えば良いのでしょうか…

そんな茜ひとりでは進みそうにない物語を動かす。
それが普通ではない文学少年・小太郎です。

 

相手の気持ちも良くわからないのに「つきあって」と交際を申し込む。
修学旅行、連絡を取りたい一心で千夏のスマホを借りる。
遊園地で堂々の交際宣言。そして別行動に持ち込む。
茜と同じ高校を受験することを決める。

茜「みんなに言っとくね」(可愛い)

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その他「5話から8話までの振り返り」で少し書きましたが、小太郎はいつも茜のして欲しいことを先回りしていきます。

capibara.hatenablog.jp

なんだか小太郎も、文芸部=内向的というイメージからずれている気がします。
単に好きな人のために動く、彼女のために尽くすのではなく、自分を信じて行動する姿は「茜の想いは自分と同じはず」と主張しているかのよう、かなり大胆で行動的です。

こちらは行動派文学少年とでも言えば良いのでしょうか。

内向的スポーツ少女と行動派文学少年の物語。前述の千夏ヒロインで考えた物語と比べると、少し強引なストーリーになりそうですね。ラブコメでもかなり面白いお話ができそう。

ファミレスで小太郎と出会った時の茜は「学校では言わないで…、恥ずかしい」と言っていたのに、べにっぽが見つかると緊張が解けたのか「ホント恥ずいんだけど…やっぱ走るの好きだから」と早口でまくしたてる。

用具室で緊張の中やっとの思いで小太郎に声を掛けるけど、その後緊張が解けると小太郎の制服が汚れているのを見て躊躇無くパンパン叩く。

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内向的だけど部活仲間以外、心咲たちとも空気を読んで仲良くつきあえる。
家族との会話では「お姉ちゃん」ではなく「姉ちゃん」


ご飯を「お替わり」ではなく「おかーり」とかリラックス感半端ない。

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茜の場合は親しくない人と親しい人に対する緊張の度合い。打ち解ける前とその後のギャップ、内弁慶度にかなり萌えます(笑)
そして関係が深まり過ぎると感情に振り回され押さえられなくなる。

元気なスポーツ少女と、大人しい文学少年という記号化された組み合わせではなく、スポーツをやっている内向的な少女と、文学を愛する行動的な少年という組み合わせが、良くある物語とは少し違う印象を与えていると思います。
そして従来の物語と少し違う落差を持った主人公にしたことが、この物語が心に刺さる大きな部分かなと思いました。

「リアリティのある物語」と良く言われますが、本当に普通の日常と登場人物を描いても、当たり前過ぎて共感はできてもリアルを感じない。
リアリティのある物語とは手を伸ばせば届くかもしれない、でも手を伸ばすことができない「共感できるフィクション」の中にあるものかも知れません。
(Cパートは普通の日常に近いと思います。それが本編を際立たせているかも)


水野茜はあくまでフィクションの存在。でも昔出会ったあの子も、こんな気持ちでいたのかも知れない。

そして安曇小太郎は「あの時、手を伸ばすことができなかった自分」
これもやはりフィクションです。

心地よい、夢のような、でも手の届きそうなフィクションを描いてくれることで、「もしかしたら…」のリアリティを感じることができる。

そして中学生時代が遥か遠い過去になってしまった私が、LINEという最新ツールを手にした昔の自分を思い出す感じ…
それは「懐かしい未来」ではなく、「新しい過去」を創造してくれる。

私にとって「月がきれい」とはそんな物語。それがいつまでたっても「月ロス」を解消できない理由のひとつかもしれません。

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